圧倒的なこの無力を

 

プラットホームにいる人々は、突然に訪れた春の陽気と光の中にいた。その中にいる誰も彼もが、9年前の自分自身に会いに行くような、そんな穏やかで儚げな表情を浮かべているように見えるのは、気のせいだろうか。

 


今日はあの日とは随分と違って春の陽気がそこら中に溢れる。暖かくて気持ちがいいね と、君はポカポカ話しかけてくる。それに私が答えなくても、続けて私の頭を優しく撫でてくる。君の暖かさで私の髪が柔らかくなっていることに気がつく。

そんなに穏やかに笑うけど、あの日の荒れ狂う残酷な荒波だって君だろう? 喉までこみ上げてきた言葉を口にするには、私はまだ弱かったみたいで、きっとそれを言ったところで、泣いてしまうのは私のほうだった。

何も言わない。かわりに、君の陽気をゆっくりと深く吸って目を閉じる。会いに行くんだ。あの日の私に。あの日の続きを奪われたあの子に。あの子との未来を思い描いていた少年に。何度も何度も会いに行くんだ。

 


会いに行くんだよ。

 

圧倒的なこの無力の中で

いつまでも祈っているから

 

 

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全部受け入れるかい?

偏頭痛がする。

今日は春の嵐だよ と、駅まで車を出してくれた母が呟いた瞬間に赤だったそれは青に変わった。

 

印象的な歌詞は鼓膜をすり抜けて私の体内に入り込み、いつまでも取り残される。

取り残されてからは、私の体内を血液のように上手く泳いでいる時もあるが、基本的にはぐるぐると渦巻いていて、行き場を失ったようにあちこちを彷徨っている時がほとんどだ。つまりそれらは快調をもたらすだけでなく、しょっちゅう胃もたれも起こすから厄介だ。一生消化なんて出来やしないだろう。

 

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意味も訳も持たずに景色が移り変わっていく。

その馬鹿みたいな速さにシンクロするものなんて私の中には無いから、当然私だってその馬鹿みたいな速さを意味も訳も持たずに眺めてやることしか出来ない。

消化できずにいつまでも体内を彷徨っているたくさんの一節たちは、こういった時に取り留めもなく再生される。

私は言葉を持っていないが、今再生されていることには意味があるんだ と、心の奥で密かに願っている。

いつの頃からか、私の中でこんな悪癖が深く根を張っていて、ときどき日々の怠惰を抱きしめたりしている。

 

 

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